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第259回 スポーツ界で相次ぐ人種差別

257回のこのブログは「無観客試合」のタイトルで、3月8日埼玉スタジアムで行われたJリーグ第2節浦和レッズ対サガン鳥栖の一戦で起きたレッズサポーターの人種差別につながる「JAPANESE ONLY」の横断幕の一件。Jリーグは第4節の同スタジアムでの対清水エスパルス戦を無観客試合として、差別に対しての厳しい裁定を行ったことに触れた。そして、4月27日のスペイン1部リーグ、バルセロナ対ビジャレアルの一戦でブラジル代表DFダニエウ・アウベス(ブラジル代表)に対して、スタンドからバナナが投げられた。猿が好むバナナはこれまでも有色人種に対する侮蔑、つまり差別の表現として用いられた。この時はアウベス選手がバナナを拾い上げ皮をむいて口に放り込み、食べ終わってからCKを蹴る見事なパフォーマンスで、差別に対して大人の対応で退けた。

2010(平成22)年、サッカーのワールドカップ(以後WC)が南アフリカで開催された。この決定についてFIFA(国際サッカー連盟)は次のように開催理由を世界に発信した。アフリカ大陸ではこれまでWCも五輪も開かれていないが、南アフリカは長期に亘ったアパルトヘイト(人種差別政策)がネルソン・マンデラ大統領の指導の下で終息した歴史的な経過に賛同。WC開催で世界の耳目が南アフリカばかりでなく、アフリカ全体に及びFIFAの姿勢が評価されたものだった。しかし、世界のサッカー界の実情はその思いとはほど遠いところにあるのは何故だろう。

南アフリカの翌年2011年6月22日、ロシアリーグの試合中、元ブラジル代表のロベルト・カルロス選手はアディショナルタイム(従来のロスタイム)中に観客席から足元にバナナを投げ付けられ、試合終了の笛を聞かずにフィールドから去った。カルロス選手へのこのような行為はそれまでにも起きており、22日の試合終了後『文明的な国で許されない行為だ』と失意を語ったとある。これは6月26日の毎日新聞国際面が報じたことだが、ロシアでの差別意識は相当に根深いものを感じるし、さらに文面は"サッカーの観客は、血の気が多く、試合経過によっては鬱憤(うっぷん)がたまりやすく、ちょっとしたことで騒ぎだしたりするものだ"の下りになると、サッカーと言うスポーツの持つ本質的な部分を論じ、対策を講じなければ解決しない問題にも思える。ただ、カルロス選手のアピールが前述のアウベス選手のようなポジティブなものであった方がインパクトは大きいと思えた。2018年のWC開催地として決定しているロシアは果たしてこれらの背景をクリアできるのか。

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そんな矢先に今度は、NBA(アメリカ・プロバスケットリーグ)でクリッパーズのドナルド・スターリング・オーナーが人種差別発言で250万ドル(約2億5500万円)の罰金を科せられ、永久追放の処分を受けた。また、NFL(アメリカン・フットボールリーグ)でも、差別は歴然とあり、被害を受けた中には日本出身アシスタントトレーナーに"ジャップ"(日本人に向けた侮蔑用語)と言う、言葉を浴びせられた例もあり、表向きは少なくなって来ているが、まだまだ人目の付かない所では根深いのが実情のようだ。257号の「無観客試合」ではMBL(メジャー・ベースボール・リーグ)の初めての黒人選手ジャッキー・ロビンソンを紹介したが、彼の波乱の実話『42 世界を変えた男』という映画が先に放映されたが、そのDVDがブログをアップした4月15日の当日奇しくもリリースした。スポーツ界を席巻する感じの人種差別問題、その原点とも言うべきこの映画は鑑賞するに値すると思いお勧めしたい。苦しい経過はあったがMBLはその後、ロビンソン選手の活躍を認め、野球の殿堂入り、さらには彼の背番号42番は所属したドジャースばかりではなく、全チームの永久欠番として、さらにさらに4月15日をジャッキー・ロビンソンデーとして、この日は全ての選手が42番でプレーする破格の評価で遇している。それ以降の黒人、有色人種のプレイヤーが大手をふって活躍できる環境はご承知のとおり、素晴らしいことと思う。

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翻って、日本での外国人対応はどうなんだろう。国技と言う意味では大相撲がある。先の大阪場所で優勝したモンゴル出身の鶴竜関が横綱に昇進した。これで3人の横綱すべてがモンゴル勢となったが、多くの相撲ファンは日本人力士の不甲斐なさを嘆きはしても、横綱を含め関取の外国人に対して観客からの差別的な言動は見かけない。これはプロ野球や他の競技でも言えることで、スポーツ文化の成熟度を示し、日本人として異なる人種への包容力は文化度の高さを示すもので誇りたい。ただ、朝青龍のように度々のマナー違反や、暴力行為に対しての批判は当然。毅然とした態度もまた矜持として保ちたいものだ。

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