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第296回 5月を歩く~2015

世界各地を歩いてみて日本ほど季節の移り変わりの鮮やかな国は他にない。常夏の国も短期間の滞在には心地よいものだが、生活の基盤となるとTシャツやアロハの生涯は単調だろうし、雪や深い霧に年間の半分余りを閉ざされる地域では、健康上の大きなハンディーも抱える。その点、四季があるということは生活様式の句読点みたいなもので、日本人はその時々に合わせて生活しエンジョイ出来る幸せに恵まれている。その中でも極め付きの季節がやはりこの陽春の気候。幾つかの国民の祝日が重なる(もちろん意図的な心憎い配慮)ゴールデン・ウイーク。今年もこの季節を待ちかねて、リュックを背負って足をのばした。

某日~山鹿市菊鹿の奥の「相良とびかずら」周辺。原産は中国・揚子江流域のようだが、自生は国内で此処だけの希少種と言われてきたが、近年、長崎・佐世保の沖の小さな島でも発見されたようだ。いずれにしてもとても珍しいもの。駐車場には山口や福岡・佐賀あたりのナンバーもあり、人気のスポットの賑わいを呈していた。数年まえに何度か参加した、熊本ワインのナイトハーベストと言う銘柄のぶどう摘みのボランティアも菊鹿のこの近く、初秋の深夜の摘み取りは周りの山々が黒々と見えたが、今回は輝くような春の日差し、その山々は新緑に覆われていた。ただ、緑一色かというとそうでもなく、緑に混じって黄色よりやや薄めの白っぽいクスの若葉、また、竹林は苟が出た後はしばらく枯れ葉になり、この短い期間を昔の人は「竹の秋」と言い、春の季語に使われるのは面白い。また、「5月を歩く」では何度か使ってきたが、これらの春の山の幾つかの色が織りなす、賑わいみたいなものを称して「山笑う」の表現は、風情があり楽しめる。

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(アイラトビカズラ)


某日~恒例の「有田の陶器市」にも出かけた。特別な買い物がある訳ではなく、何となく「顔を出さないと頭がうずく」の感じ。一方「帳面消し」の部分もあるが、若い人にはこれらの表現は通じているのか不確かな想い。人ごみで左右に店が立ち並ぶ目抜き通りも、もちろん魅力たっぷりだが、私はこの数年は一本裏手の「トンバイ塀」通が気に入っている。トンバイ塀とは解体した登り窯のレンガを利用して造られた塀で、独特の雰囲気を醸す裏通り。もちろん、深川製磁や香蘭社の著名な老舗も訪れるが、ほとんどは目の保養。むしろ、名もない店先に並べられた陶器に手ごろで、面白い品に出会えることが多い。その後、少し足を延ばして唐津の名護屋城跡へ、秀吉の晩年の愚行とも言うべき朝鮮出兵のための城、規模的には大阪城につぐ物だが、僅か5カ月で築城の急拵えの城で、築城の名人の加藤清正も加わっているが、大きな石垣が壊れた箇所が多く。"何と壮大なムダ"であったか思い知ることが出来る。

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(有田陶器市にて)

9日、札幌ドームにロアッソ熊本対コンサドーレ札幌(以下札幌)のゲーム観戦に出かけた。3月10日のブログ~288号で触れたが、札幌はこの10年来、シーズン前の春季キャンプを熊本市で行っている。この件での熊本県サッカー協会の担当は事業委員長の満田和浩常務理事。受け入れから、会場手配、滞在期間中の練習マッチ等の設定。それは、札幌チームに限ることではなく、中国や韓国、そして国内の他のJチームや女子チームと分野を広くスケジュール調整等に尽力してもらっている。3月4日に県・市の窓口と協会で札幌の監督・スタッフとの会食を行い、クロアチアからのイヴィッツア・バルバリッチ監督とお会いして、親交を深めたことは前述した。今回、県の方々に「くまモン」が加わり、満田氏と私でロアッソ熊本のアウェー戦で札幌ドームに伺った。札幌ドームは移動方式でホヴァリングシステムと言い、日本で唯一の屋内天然芝サッカースタジアムであると共に、人工芝の野球スタジアムが併設されたもので、サッカーはコンサドーレ札幌、プロ野球では日本ハムの本拠地。最高収容人員は5万3千。かつてはダルビッシュ・有投手、そして現在は大谷翔平選手が二刀流として投打に活躍。また、昨年の9月5日にはサッカーの日本代表とウルグアイ戦が行われ4万人近い観客が観戦した。

観戦した熊本対札幌戦、私もロアッソを応援して10年になるが、このゲームのように躍動感あふれるロアッソを観たのは殆ど初めての体験。開始早々にFW斉藤和樹がスピードに乗った動きで相手DFを抜き去り先制ゴール。前半中盤には右サイドからの低めのクロスに合わせ、まさに水泳の飛び込みのダイブする感じのヘディングで2点目。1万人を超す札幌のサポーターが静まりかえる。後半10分にFW巻誠一郎がコーナーからゴール前への低いパスに合わせて押し込みゴールでなんと3対0の展開。それらのゴールシーンとは別にメンバー全員が良く走り、執拗に相手をマークして奪い返してマイボールの場面が多かった。ただ、すんなりいかないのがサッカー、後半34分に園田拓也がレッドを宣され一人少なくなった前後からは、札幌の猛攻が始まり2点をとられ3対2。そしてアディショナルタイムが何と6分。それを何とか防ぎきって今季2勝目を手にした。

夜に3月の際のお返しの意味もあり、札幌のバルバリッチ監督と数名のスタッフの方々と、ビール園で会食をした。私は『ゲームの終わったあと、それもホームでの敗戦の直後に、こんな機会に監督自ら出席されて、心苦しいものがある』と申し上げると。監督は『もちろん結果は残念だったが、私たちの交友はもっと大切なものだ』と柔和な表情で語っていただいた。そう言えばロアッソの小野剛監督も、苦しいシーズンの中でも、いつも変わらぬ穏やかな雰囲気で、ゲーム後のコメントも選手をねぎらうものが多く。二人の監督の指導者としての人格の素晴らしさを改めて実感した。

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(サッポロビール園にて 左から3番目:筆者、左から4番目:バルバリッチ監督)

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