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第267回 回顧~北京界隈

我が国は大昔から中国大陸の影響を数多く受けてきた。思想、教育、文化等、「論語」や「孫子の兵法」は今も我々の生活の中で息づくし、陶器や書画や漢字は日本人の生活の中に違和感なく溶け込んでいる。ただ、最近は尖閣を始めとする領土問題、PM2.5の大気汚染、食の不安等、近隣国としてはネガティブな事態が多い。中国は20世紀末からは地方出身の安価な労働力による、世界の生産工場として膨大な利益がこの国に流れ込み経済大国化していくが、労働者への情報未公開や劣悪な待遇はウイグル、チベットの少数民族の問題と共に人権問題として、国際社会から改善の指摘が続けられている。このブログは基本的にはスポーツ愛好者に向けたものなので、政治的な話題は極力避けたいと思うが、体験上はどうしても触れなければならない時もあり、出来るだけ穏やかに表したいし「寸鉄人を刺す」で止めたい。

そのような、経済大国の前の中国にはよく出かけた。『どうして、前か後の基準は何』の問いには、明解な答えが一つある。それは、以前は自転車の大群、今日では車の大群が判断の根拠。北京界隈はなぜか冬の訪問が多く、澄み切った青空の印象が強く、今日のスモッグに覆われた風景は予想もしなかった。アジアの大会でも度々出かけたが、1990(平成2)年には中国ナショナルの選手を立石電機チームに招くことになり、天安門広場を東西に抜ける長安街の立石の北京事務所で王涛さんと、張泓さんの二人と出会い交渉を行った。もちろん二人とは初対面ではなく、1988年のソウル五輪の前年に中東ヨルダン・アンマンでのアジア予選で対戦、第2延長までもつれ込んだ対戦相手でGKの王さん、ポストプレヤーの張さんの力を評価した上の選択だった。

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(北京市内で 左から王さん、井さん、張さん)

用件を済ませて二人の案内で市内を観光した。天安門広場の正面は故宮博物館。かつて紫禁城と呼ばれた。故宮の右手は北京最大の繁華街の王府井(ワン・フー・チン)。高級ホテルや有名な食堂、デパートもあり日本大使館や北京駅も近い。故宮の左手は中南海。政府要人の住居で繁華街とは対照的に静寂な佇まい。政治の中心の人民大会堂。毛沢東記念堂も広場に立ち並ぶ。その後は瑠璃街(ルリ・チャン)、ここは皇帝の高貴を表す紫の焼き物や表装具を作る職人街。下町情緒があり古書や骨董品が店頭に並ぶ。真贋の見極めと価格の交渉は腕次第の世界。そこから少し郊外の明・清朝を通じて、皇帝が五穀豊穣を祈った天壇公園(ティエン・タン・ゴン・ユェン)を訪れた。ここは中国の旅行案内書あたりの表紙によく使われる壮麗な建造物。屋根は当然、瑠璃瓦。澄んだ青空に美しく映える。私たち三人は全員180㌢、道行く人々が振り返る。

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(天壇公園)

ただ、ここまで書き連ねると、「文化大革命や天安門事件」、抜きに中国近代史は語れないとのお叱りを受けそうで、簡略に述べておきたい。1966(昭和48)年から約10年間、中国全土で繰り広げられた「文化大革命」は毛沢東が学生や少年を「紅衛兵」と称させて、知識層、富裕層をターゲットにした"権力闘争"。多くの国民が殺戮され歴史的に価値のある品々が破壊された。1989年6月の「天安門事件」は民主化を求めて広場に集結した学生や若い労働者に対して政府が武力弾圧を行い、多くの若者が亡くなった悲劇。この二つの大事件が今日の中国の姿勢に色濃く反映されているのは事実。詳細は各人の知識欲に委ねたい。今年はこの事件から25年の節目。

"アジアの中では中国の経済的、軍事的、外交的存在感は確かに大きなものがありますが、世界的視野に立てば、大国と呼べるのは人口くらいです。経済的発展段階からしても中程度の国です。力を入れている科学技術も、いまだに自然科学部門でのノーベル賞受賞者がいないことが、今の実力をあらわしている。もともと事実を軽視する中国の文明と、近代科学とは相性が良くないのかもしれません。鄧小平は「実事求是」(事実の実証に基づいて、真実を追求すること)をスローガンとして掲げましたが、この中国文明の弱点を知悉(ちしつ~知り尽くす)していたゆえの言だったともいえるでしょう。いずれにせよ、私たち日本人は中国に対して、常に人類的な普遍の立場、グローバルな立場を取ることです。日本は常に「あなた方の価値観は極めてローカルですよ。世界から見て、本当に大事なことはこれですよ」という、自由と人権、法の支配という普遍的で国際的な多数派の立場に立つことが重要なのです。最後に最も大切なことは、常に日本人らしく、正攻法で中国に対するということです。つまり中国人の真似をして、下手に策を弄したりせず、あくまでも正直に徹して、愚直に事実を重んじる日本人らしく振る舞う。これができたときの日本人が結局、一番強いのです"。

これは、中西輝政京都大学名誉教授が、文藝春秋8月号に「中国はなぜ平気で嘘をつくのか」のタイトルの特別寄稿。こんにちの中国とどう向き合うかは日本人として喫緊のテーマだが、明確な方向性を示している。

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