第275回 素晴らしき哉、人生
熊本オールドキッカーズ(KOK)が、このほど、平成26年度文科省生涯優良団体表彰を受けた。受賞の主な活動歴は県教育委員会の資料によると『60歳以上で構成され、本県高齢者サッカー競技の維持発展を推進する原動力の団体。「親睦第一」・「勝敗第二」・「生涯現役」をモットーに、心と体の健康づくり、生きがいづくりに努め、「はつらつとした高齢者像を世に発信する団体」を目指すなど、その理念も高く本県サッカー界の発展に掛け替えのない団体である』とある。また今回は同時に玉名市サッカー協会も以下の活動で受賞した。『約40年にわたり、小・中・高の大会を主管し、玉名市内における児童・生徒の健全育成に寄与している。中学生を対象とした地元企業による大会に貢献し、中学生を対象にしたスクールも展開するなど、地域における青少年の健全育成や体力向上に貢献している』。さらに、熊本にはKOKと異なるチームで頑張る60歳以上の2チームがある。県内の広範囲で団体で活動する皆さまの日ごろの努力を讃えたい。
私はこれまで、日本体育協会、県・市体育協会に携わり、「ねんりんピック」や「各競技のマスターズ」等を通して、本当にご高齢でお元気なアスリートを見てきた。幾人かの方々にはその都度お声かけをしたり、お手紙をいただくなどの接し方もしてきた。ただ、その場合、あくまでも個人のアスリートで、ひたむきさは十分伝わるし尊敬・リスペクトしてきたが、総じて印象は「孤高の人」のイメージが強く、ご家族や周りの人々の支えが一つの条件になっている場合が多い。文科省がこのほど発表した国民の体力運動能力測定でも、小・中学生の基礎体力は低下しつつあるのに比して、高齢者の運動能力は年ごとにアップしているとの報告は、多くの方々が何らかのスポーツを楽しんでおられる訳で、好ましい傾向だと言える。
団体の活動で、例えば球技に限定すると、それぞれの種目でマスターズに向けた練習や、そこまではいかないまでも地域の大会等に向けた練習会、あるいは母校と他校のOB定期戦あたりは知っているが、これはあくまでも期間限定。それがKOKで驚くのは77名の会員の60~70%の、つまり大多数のメンバーが土日を除く平日に6日に一度練習会を行う。さらに土日もキッズや地域の大会、ロアッソを始め高校や小中学生の生徒たちへのサポートや観戦等があり、週末は休養のスタイルとは程遠い。高齢者が一体なぜこんな練習や大会がこなせるのか、それはサッカーという競技の特殊性もあると思う。他の球技でバレーやバスケットのようにジャンプが求められる種目。又、野球やハンドボールに求められる投球力、そしてラグビーの接触プレー等は競技成立のための準備がかなり求められる。その点、シニアの西日本OBサッカー連盟(中部以西・静岡・長野等)の要綱ではシニアの競技は基本的に身体接触は認められず、普段の自分の走力の中でボールを操り、相手にパスをするというサッカーの基本技で無理なくゲームが成立するところに、高齢者が気軽に取り組める鍵があると思える。そのために幾つかの心くばりもある。例えば、各年代が識別できるようになっており、カテゴリー制で40代は黄色パンツ、50代は橙色(オレンジ)、60代は赤色、70代は銀色、80歳から84歳までは金色、85歳から89歳までは紫色、90歳以上は白地に「寿と龍虎」の刺しゅう入りと、色分けされており解り易い。そして、殆どの皆さんが龍虎のパンツを目指しておられ、その勢いはまさに"勢い猛"(いきおいもう~勢いが強く、富栄える)でまさに意気軒昂。因みに寿選手はオフサイドなしと規約は微に入り細に亘る。
KOKは日ごろは肥後銀行グラウンド(菊池郡菊陽町)が主な練習場。私はサッカー協会に関わって8年目を迎えるが、その早い時期に当時協会の副会長であった藤野健一先生にご案内をいただきKOKの練習に伺った。その日は合志市野々島のルーテル学院グラウンドだったが、皆さんが時間を掛けてゆっくり、じっくりとストレッチを繰り返し、それからボールを使った練習に移行、そしてゲーム。チームの77名のメンバーの中には北九州、久留米やその近郊の糸島からも通って来られる方々もいる。その皆さんは体に故障はないのかと思われがちだが、実はそうではない。ボールを蹴りまくり、激しくぶっかりあった若い頃からの故障個所はそれぞれに大なり、小なりを抱えている、いや凶状持ちと言って過言ではないが、だから準備運動は丁寧、かつ入念に行われる。
楽しい話を聞いた。肥後銀行のグラウンドに隣接した菊陽西小学校にもサッカー少年たちがいるが、その子どもたちに「天然芝のコートでプレーをさせたらどうだろう」との話が、KOKの中で持ち上がり、今年の3月中旬に卒業前の6年生との親睦試合が行われたそうだ。最初は『じいさんたちのチームとや』と高を括っていた小学生も、超ベテラン方の足技に『本気でせんと負くるバイ』と大慌て、結果は小学生たちには悪いので公表は控えよう。ただ、チームの一員のA君はその日の感想として『僕も将来はあのチームでプレーしたい』と語ったそうで、勿論、前途のある彼には、その前に五輪や、ワールドカップへの大きな夢があるが、それらを終えたあとにKOKの皆さんの姿を胸に焼き付けた将来構想は素晴らしいと思えるし、それに手を貸していただいたKOKの皆さまに最大の拍手を贈りたい。「素晴らしき哉、人生」いや「素晴らしき哉、サッカー人生」と評したい。