第291回 世界で最も貧しい大統領のスピーチ
先日、テレビで「世界で最も貧しい大統領」のタイトルで、ウルグアイ第40代大統領、ホセ・ムヒカ氏の生き方、考え方が紹介された。ある日、同国の人が田舎道でヒッチハイクをしていると、ポンコツに近い古ぼけた車が止まってくれた。乗り込んで運転手を見ると太った老人、しかし、よく観察してみて驚き『もしかしたらホセ大統領ですか』と訊ねると、『そうだよ』と笑顔で答えた。
郊外の静かな農園で質素に暮らし、個人資産は約18万円の車のみ。南米の小国ウルグアイに世界最貧とも言われる大統領の生き方・考え方~豊かさとは何か、人生で大切なことは何かのスピーチに世界中で感銘を受ける人が続出している。一昨日、上通りの書店で、汐文社発行のくさば・よしみ編、中川学絵の「世界で最も貧しい大統領のスピーチ」の絵本を見かけ、早速買い求めた。絵本という体裁だが大人が読んでも楽しめ、老若男女を問わず読める本として、好評らしい。ご存知の方も多いと思われるが、私も感動した話しだったので出典はインターネットの検索とこの絵本からの転載だが紹介したい。低学年向けで平易な表現になっている。
2012年、ブラジルのリオデジャネイロで国際会議が開かれた。環境が悪化した地球の未来について、話し合うためでした。世界中から集まった各国の代表者は、順番に意見を述べていきました。しかし、これと言った名案は出ません。そんな会議も終わりに近づき、南米の国ウルグアイの番がやってきました。演説の壇上に立ったムヒカ大統領。質素な背広にネクタイなしのシャツ姿です。彼は世界で一番貧しい大統領なのです。大統領の報酬月額25万ウルグアイペソ(約115万円)の9割近くを社会福祉基金に寄付し、大統領の公邸には住まず、町から離れた農場で奥さんと暮らしています。花や野菜を作り、運転手付きの立派な車に乗る代わりに古びた愛車を自分で運転して仕事に向かいます。身なりを構うことなく働く大統領を、ウルグアイの人は親しみを込めて「ペペ」と呼んでいます。さて、ムヒカ大統領の演説が始まりました。会場の人たちは小国の話にそれほど関心を抱いてはいないようでした。しかし、演説が終わった時大きな拍手がわきおこったのです。
"ここに集まった世界各国の代表者とあらゆる組織の代表者の皆さまに、深く感謝します。そして私の前に演説をされた方々は、きっと高い志を持って話されたことでしょう。その高い志に感謝いたします。さて、私たち哀れな人類は、どんな未来を選ぶべきなのでしょうか。このことに意見を一致させようと、世界中の代表者がいま心を一つにして話し合おうとしています。この姿は、このままではいけない、何とかしないといけないと、皆が強く思っていることの表れです。しかしながら、声を大にしていくつか質問することをお許しください。今日ここでずっと話されていたことは、人類がこのさき、地球の自然と調和しながら生きていくにはどうしたらよいのか、そして世界から貧しさをなくすにはどうしたらよいのかと言うことでした。しかし一方で私たちの頭には何が浮かんでいるでしょう。欲しいものがどんどん手に入る、裕福な社会を望んでいるのではないでしょうか。私は皆さんに問いかけます。もしもインドの人たちが、ドイツの家庭と同じ割あいで車を持ったら、この地球に何が起きるでしょう。私たちが息をするための酸素がどれだけ残るでしょうか、もっとはっきり言います。70億や80億の全人類が、いままで贅沢の限りを尽くしてきた西洋社会と同じように、物を買ったり無駄遣いしたり出来ると思いますか。そんな原料がこの世界にあると思いますか~中略。人より豊かになるために、情け容赦のない競争を繰り広げる世界にいながら「心を一つに、皆んな一緒に」などと言う話が出来るのでしょうか。誰もが持っているはずの、家族や友人や他人を思いやる気持ちはどこにいってしまったのでしょうか。こんな会議をして無駄だと言いたいのではありません。むしろその反対です。私たちが挑戦しなくてはならない壁は、とてつもなく巨大です。目の前にある危機は地球環境の危機ではなく、私たちの生き方の危機です。今や自分たちが生きるために作った仕組みを上手く使いこなすことが出来ず、むしろその仕組みによって危機に陥ったのです"
スピーチはもう少し続き、随所に心をうたれる言葉がある。幾つか拾い記述したい。
"貧乏とは少ししか持っていないのではなく、無限に欲があり、幾らあっても満足しないことです"
"お金が余りに好きな人たちには、政治の世界から出て行ってもらう必要があるのです。彼らは政治の世界では危険です。お金が大好きな人は、ビジネスや商売のために身を捧げ、富を増やそうとするものです。しかし、政治とは、すべての人の幸せを求める闘いなのです"
まさに至言であり、世界中の人々に、そして最後の言葉は世界中の政治家への警鐘のスピーチと受け止めたい。
"清貧"ムヒカ大統領の生涯が、世界3大映画祭を制した、エミール・クストリッツア監督で映画化決定。